来 歴


どんな海を


夢の中ではいつも
荒れ狂う暗い海を選んでいた
激しく生きられない日々が
歯がゆくてならなかったころ
しきりに夢の海を渡ったものだ
唐突に目をさますまで
仮空の海のまっただ中
波の牙にあらがい続けて
息もつけないでいる夢
苦しい夢をバネにして
生きようと願ったのだろうか
あのころ夢に見た海は
生き返ることのできない
私の時間を呑みこんだあげく
もうとうに
干上がっているのかもしれない
溺れた私を
通い海岸に置き去りにして

今私の日常をとりまくのは
潮の香のしない海
ひたひたと寄せてくる季節は
波のリズムに似ている
飢える辛さと
撃たれる恐ろしさの境界を
何度もふりかえりながら
逃げて行く冬のカモシカ
テレビに映る生き物の眼が
溺れる夢の中の
哀れな私の眼とぴったり重なる
蕾のまま干からびた薔薇
勢いよくのびきった茎の先に
何かのにえのように
乾いたかさぶたを咲かせている
それらそそけだつ冬を
上げ潮のように運んで
険しく波うつ日常の海よ
さて今は夢の中に
どんな海を運べばいいのか

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